仙台高等裁判所秋田支部 昭和25年(ネ)21号 判決
控訴代理人は原判決を取消す被控訴人が控訴人に対し昭和二十四年六月七日秋田県指令農地第七号を以つてなした別紙目録記載の土地についての賃貸借契約の解除は許可しないとの行政処分はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、
被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方事実上の主張は控訴代理人に於て訴外茂助の耕作反別は本件係争地二筆を除いて九段六畝歩である。控訴人の同居の親族は控訴人(当五十年)女ヨテ(当七十六年)女ヤヱ(当四十九年)女ミワ(当二十八年)男光一郎(当二十五年)男恵一(当二十六年)の六名である。左記被控訴代理人の釈明事実はこれを争わないと述べ、被控訴代理人において訴外茂助の耕作反別は本件係争地を含めて一町七畝十九歩である。右茂助の同居の親族は右茂助(当四十九年)女キチヱ(当四十年)男勝二(当二十年)男誠三(当十七年)男進(当十五年)女国子(当十一年)男広(当五年)である。控訴人の同居の親族の氏名性別年齢に関する控訴人の主張はこれを争わないと述べた外いずれも原判決摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。
(立証省略)
三、理 由
控訴人主張の別紙目録記載の田地二筆が控訴人の所有で現に訴外柳沢茂助がこれを控訴人から賃借して小作していること、控訴人が昭和二十三年十二月二十日右賃貸借契約解約の許可申請を為したこと及び被控訴人がこれに対し同二十四年六月七日秋田県指令農地第七号を以つて不許可の行政処分を為したことはいずれも当事者間に争なく、右処分が同年同月十八日控訴人に送達せられたことは成立に争のない甲第一号証の一、二及び本件口頭弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。控訴人は右行政処分を違法であるとなしその取消を訴求するにより審案するに原審証人柳沢茂助同柳沢永太郎同木村恒雄、当審証人佐藤重太郎の各証言並びに原審に於げる控訴人本人尋問の結果を総合して考察すれば本件田地二筆は元来控訴人先代亡柳沢春治の所有であつて控訴人の実弟で元控訴人方に同居して居た訴外柳沢茂助が実際上その耕作に当つて居たのであるが同訴外人が昭和十二年九月応召したので前記春治は手不足の為めこれを昭和十六年迄訴外柳沢卯之に賃貸しその後一時控訴人に於てこれを自作したが前記茂助の帰還後昭和十七年から再び同人がこれを賃借して小作することになり現在に至つていること、右春治は同十九年二月死亡し控訴人においてその家督相続を為したこと、右賃貸借の際その期間を当時大曲農学校に在学中であつた控訴人の長男恵一が同校を卒業するまでとする旨の特約のあつたこと、その後右恵一は同校を卒業したがその頃同二十二年二月入営することになつたので同人が帰還するまでとの約定で右賃貸借を更新したことが認められるのであつて敍上の経過内容の契約は右恵一の帰還が不確定期限とするものと解するを相当とすべきところ、右恵一が昭和二十三年十月二十七日帰還したことは当事者間に争のないところであるからその当時契約更新拒絶その他法定の賃貸借を終了せしめる為の手続を執つたことの主張立証のない本件にあつて右賃貸借は右恵一帰還の日に更新せられて期間の定めのない賃貸借契約が契約当事者間に存続するに至つたものと認むべきである。よつて進んで控訴人主張の如く控訴人において本件土地につき自作を相当とする等右賃貸借契約を解約するにつき正当の理由があるか否の点を審究するに自作を相当とするや否やはその農業経営の能力、施設、増産力その他生活の実態並びに将来の見透し等を比較考量し相対的且つ客観的観察によりこれを決すべきところ控訴人の同居の親族が判示の如く控訴人を含めて六人であることは当事者間に争のないところであつて、成立に争のない乙第三号証乙第六号証、甲第二号証の一、二原審証人柳沢茂助の証言並びに原審における控訴人本人尋問の結果を総合すれば控訴人の同居の親族中五名が農業に専従し馬三頭を使用して田約八反歩畑約一町二反歩を耕作し、りんごの生産によつて生計の資を得居町内に於て同町議会議員等の公職について上位の生活を営み、昭和二十三年度産米については保有米十二石八斗余を認められ供出割当は課せられていないこと、訴外柳沢茂助は同居親族七名の内四名が農業に専従し馬二頭牛三頭を使用して中位の生計を営み、昭和二十三年度産米については保有米十七石二斗余を認められ七石余の供出割当を課せられていることが認められる。以上認定の事実と訴外柳沢茂助が本件土地の実際の耕作に当つて来た事情を考慮に入れ更に控訴人の農業経営能力、訴外柳沢茂助の生活状況、本件土地を控訴人が自作することと本件土地生産の増強との関係を比較較量し更に特別の事情がない限り現在の耕作者の地位を保護し耕作権の強化を図ろうとする農地調整法本来の立法趣旨を考え合せるときは本件に付いては長男恵一の帰還により労力を増加した控訴人が本件田地の自作を熱望する事情を窺い得ないものでもないが他に特段の事情がない限り控訴人において特に本件田地を自作することを相当とする理由は認め難い。然らば控訴人に本件賃貸借契約を解約して本件土地の返還を受けるべき正当の事由はないとの認定の下に本件賃貸借契約解約の許可申請を却下した前示被控訴人の行政処分は相当であつて何等これを違法とすべき理由なく、従つて右の行政処分の取消を求める控訴人の本訴請求は結局失当という外ないからこれを棄却すべく、これと同趣旨の原判決は洵に相当であるから本件控訴を棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 豊川博雅 村上武 三橋弘)
(目録省略)